この記事でわかること
人口減少と少子高齢化が進むなかで、地域医療は「拡大」から「再設計」へ移りつつあります。 本記事では、医療機能の集約化、オンライン診療の制度化、D to P with N、医療DXの重要性を整理します。
2040年問題
高齢者の増加と医療人材の減少により、従来型の医療提供体制は維持が難しくなります。
オンライン診療
2026年4月の医療法改正により、オンライン診療は制度上の位置づけが明確になります。
医療DX
医療情報の共有、AI問診、電子カルテ標準化が、持続可能な地域医療の基盤になります。
人口減少時代の医療は、どう守られるのか
日本の医療は、いま大きな転換点に立っています。
これまで私たちは、体調が悪くなれば「近くの病院へ行く」ことを当たり前のように考えてきました。 しかし、人口減少と少子高齢化が進むこれからの日本では、その当たり前をそのまま維持することが難しくなってきています。
特に地方では、すでに医師不足、看護師不足、病院の統合・再編、診療科の縮小といった変化が現実のものになっています。
では、人口が減っていく社会の中で、医療をどう守っていくのか。 その重要なキーワードが、地域医療の再編とオンライン診療です。
2040年に向けて、医療は「広げる」時代から「再設計する」時代へ
これまで日本の医療政策では、2025年問題が大きなテーマでした。 2025年とは、団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者が大きく増える節目の年です。
この時期に向けて、急性期病床の見直しや、地域包括ケアシステムの整備などが進められてきました。 しかし、医療にとって本当に大きな課題は、その先にあります。
それが2040年問題です。
2040年頃には、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口が高止まりする一方で、現役世代は大きく減少します。 特に重要なのは、85歳以上の人口が増えることです。
85歳以上になると、医療だけでなく、介護、生活支援、在宅での見守りなど、複数の支援を同時に必要とするケースが増えます。
- 慢性疾患を管理する
- 介護と連携する
- 在宅生活を支える
- 急変時に対応する
- 家族や地域の負担を減らす
一方で、それを支える医師、看護師、薬剤師、介護職、事務職などの人材は減っていきます。 この現実を考えると、すべての地域で、すべての医療機能を、これまで通り維持することは難しくなります。
そこで必要になるのが、医療提供体制の集約化・再編です。 医療は「量を広げる」時代から、「必要な機能を地域全体でどう配置するか」を考える時代へ移っています。
医療の「縮小」は、単なる後退ではない
「医療の縮小」と聞くと、不安を感じる方も多いと思います。 病院が減る。診療科がなくなる。入院できる場所が遠くなる。 そう考えると、どうしてもマイナスの印象を持ってしまいます。
しかし、これから求められる医療の縮小は、単にサービスを削るという意味ではありません。 むしろ、限られた医療資源を守るための再設計です。
| これまでの医療 | これからの医療 |
|---|---|
| 各病院が多くの機能を抱える | 高度医療は拠点病院へ集約する |
| 病院単体で患者を支える | 地域全体で役割分担する |
| 通院を前提に医療を提供する | 在宅医療・オンライン診療も組み合わせる |
| 医師の移動・対面診療に依存する | 看護師・多職種・医療DXで支える |
高度な手術や専門治療は、一定の症例数や専門スタッフが集まる拠点病院に集約する。 一方で、高齢者救急、慢性疾患管理、在宅医療、退院後支援などは、地域に密着した医療機関や訪問看護、介護サービスと連携して支える。
つまり、これからの医療は「どの病院も同じ機能を持つ」時代から、地域全体で役割分担する時代へ移っていきます。
オンライン診療は、医療の縮小を補う重要な手段になる
医療機関の集約化が進むと、避けて通れない問題があります。 それは、患者さんの医療アクセスです。
病院が遠くなる。専門医が近くにいない。高齢で通院が難しい。家族の送迎が負担になる。交通手段がない。 こうした課題は、人口減少地域ほど深刻になります。
そこで重要になるのが、オンライン診療です。
オンライン診療は、単に「スマホで医師と話す仕組み」ではありません。 これからの地域医療においては、医師不足や医療アクセス格差を補うための、重要な社会インフラになっていきます。
オンライン診療は、対面診療をなくすものではありません。 対面診療を必要な場面に集中させるための仕組みです。
もちろん、すべての診療をオンラインで完結できるわけではありません。 触診、検査、処置、急変対応など、対面診療が必要な場面は必ずあります。
だからこそ、これから重要なのは「オンラインか、対面か」という二者択一ではありません。 オンラインと対面をどう組み合わせるかです。
2026年4月、オンライン診療は医療法上の制度へ
オンライン診療を考えるうえで、非常に重要なのが、2026年4月に施行される医療法改正です。
この改正により、オンライン診療は医療法上に明確に位置づけられることになります。 これまでオンライン診療は、厚生労働省の指針や通知に基づいて運用されてきました。
しかし今後は、より制度として明確化され、実施医療機関の届出や基準整備が進んでいきます。 これは、オンライン診療を安全に、適正に、そして地域医療の中で有効に活用するための基盤整備といえます。
1つ目:オンライン診療の実施状況が「見える化」される
今回の改正では、オンライン診療を実施する医療機関に対して、都道府県への届出が求められるようになります。 これにより、どの医療機関がオンライン診療を行っているのか、どのような体制で実施しているのかが、行政側からも把握しやすくなります。
オンライン診療は便利な一方で、不適切な運用が行われれば、患者さんの安全を損なう可能性もあります。 だからこそ、制度として見える化し、一定のルールのもとで運用することが必要です。
2つ目:「オンライン診療受診施設」が創設される
今回の改正で特に注目されているのが、オンライン診療受診施設の創設です。
オンライン診療というと、多くの方は「自宅でスマホやパソコンを使って受けるもの」と考えるかもしれません。 しかし、高齢者の中には、スマホ操作が苦手な方もいます。
自宅に通信環境がない方もいます。 一人でオンライン診療を受けることに不安を感じる方もいます。
そのような方々のために、地域の中に「オンライン診療を受けるための場所」を整備する仕組みが、オンライン診療受診施設です。
オンライン診療受診施設のイメージ
3つ目:オンライン診療のルールがより明確になる
これまでオンライン診療のルールは、主に厚生労働省の指針という形で示されてきました。 今後は、オンライン診療基準として省令に位置づけられ、より法的な意味合いが強まります。
これにより、不適切なオンライン診療に対して、行政が指導や是正を行いやすくなります。 オンライン診療を広げるには、自由度だけではなく、信頼性が必要です。
在宅医療を変える「D to P with N」という考え方
オンライン診療の中でも、これから特に注目されるのが、D to P with Nという形です。
これは、Doctor to Patient with Nurse の略で、医師がオンラインで患者さんを診察し、その患者さんのそばに看護師がいるモデルです。
医師は画面越しに診察する。看護師は患者さんのそばで状態を確認する。 必要に応じて、医師の指示のもとで処置や検査を行う。 これがD to P with Nの基本的な考え方です。
従来の在宅医療では、医師が患者さんの自宅を訪問する必要がありました。 もちろん、訪問診療には大きな価値があります。 しかし、医師の移動時間は大きな負担です。
そこで、看護師が患者さんのそばにいて、医師がオンラインで診察する形が重要になります。 看護師が血圧、脈拍、体温、酸素飽和度などを測定する。 患者さんの表情や生活状況を確認する。 医師の指示のもとで必要な対応を行う。
これにより、オンライン診療は単なる「画面越しの会話」ではなく、より実践的な医療提供の形へと進化していきます。
医療MaaSは、地域医療の空白を埋める可能性がある
オンライン診療と相性が良い取り組みの一つに、医療MaaSがあります。
医療MaaSとは、医療機器や通信環境を備えた車両を使って、患者さんのもとへ移動する仕組みです。 いわば「動く診療所」のようなものです。
看護師やスタッフが車両で地域を巡回し、患者さんは車内や自宅近くでオンライン診療を受ける。 必要な測定や検査を行い、その情報を遠隔地の医師に共有する。 専門医が近くにいない地域でも、オンラインで専門的な診療を受けられる可能性があります。
病院をすべての地域に残すことが難しいのであれば、医療の側が移動する。 医師が移動できないのであれば、看護師や医療機器、通信環境が移動する。
この発想は、2040年に向けた地域医療の重要な選択肢になるはずです。
医療DXがなければ、オンライン診療は広がらない
オンライン診療を本当に地域医療の中で機能させるには、医療DXが欠かせません。 オンラインで医師とつながるだけでは、十分ではありません。
医師が患者さんの過去の病歴、薬の情報、検査結果、アレルギー、紹介状、診療経過などを確認できることが重要です。
そのために、全国医療情報プラットフォーム、電子カルテ情報の標準化、電子処方箋、オンライン資格確認などの整備が進められています。
医療情報が適切に共有されれば、患者さんが別の医療機関を受診した場合でも、医師は必要な情報を踏まえて診療できます。 これは、オンライン診療だけでなく、災害時医療、救急医療、在宅医療、地域連携においても大きな意味を持ちます。
医療DXは、単なる業務効率化ではありません。 患者さんの情報を、必要なときに、必要な医療者が確認できるようにするための基盤です。
AI問診や音声入力も、現場の負担を減らす
医療DXというと、大きなシステムの話に聞こえるかもしれません。 しかし、現場にとって重要なのは、日々の負担がどれだけ減るかです。
たとえば、AI問診を活用すれば、患者さんが来院前やオンライン診療前に症状を入力し、その内容を医師やスタッフが確認できます。 音声認識を使えば、診察中の会話をもとにカルテ作成を支援することもできます。
オンライン予約、電子問診、電子処方箋、キャッシュレス決済、書類作成支援などが進めば、医療機関の事務負担は大きく減ります。
人が足りないからこそ、人でなくてもできる業務はデジタルに任せる。 医師や看護師は、患者さんと向き合う時間に集中する。 これが、これからの医療DXに求められる役割です。
これからの医療は「病院完結型」から「地域・チーム完結型」へ
人口減少社会において、すべての病院がすべての機能を持つことは難しくなります。 だからこそ、これからの医療は、病院単体で完結するのではなく、地域全体で患者さんを支える形へ変わっていきます。
- 病院
- 診療所
- 訪問看護
- 薬局
- 介護事業所
- 自治体
- オンライン診療受診施設
- 医療MaaS
- 家族や地域の支援者
これらが連携しながら、患者さんを支える。 その中で、オンライン診療は、医療機関と患者さん、医師と看護師、都市部の専門医と地方の患者さんをつなぐ役割を担います。
医療機関に求められる準備
2026年4月の医療法改正を踏まえると、医療機関側にも準備が必要になります。
オンライン診療を実施する場合、届出、体制整備、運用ルール、個人情報保護、診療記録、本人確認、緊急時対応、対面診療との組み合わせなどを整理しておく必要があります。
- 慢性疾患の再診に活用するのか
- 在宅医療と組み合わせるのか
- 訪問看護と連携するのか
- 高齢者施設と連携するのか
- 自由診療で活用するのか
- 地域のオンライン診療受診施設と連携するのか
オンライン診療は、システムを導入すれば終わりではありません。 診療フロー、スタッフ教育、患者説明、同意取得、予約管理、決済、処方、緊急時対応まで含めた運用設計が必要です。
まとめ:医療の縮小を、前向きな再設計に変える
人口減少社会において、医療の縮小は避けて通れないテーマです。 しかし、それは単なる後退ではありません。
大切なのは、医療を小さくすることではなく、持続可能な形に組み替えることです。
- 高度医療は集約する
- 地域医療は連携で支える
- 在宅医療を強化する
- オンライン診療を活用する
- 看護師や多職種の役割を広げる
- 医療DXで情報と業務をつなぐ
これらを組み合わせることで、人口が減っても、地域で安心して暮らせる医療体制をつくることは可能です。
2026年4月の医療法改正は、そのための大きな転換点になります。 オンライン診療は、対面診療を置き換えるものではありません。
対面診療を守るために、オンライン診療を活用する。 地域医療を維持するために、デジタルを使う。 医師だけに負担を集中させず、看護師、薬局、介護、自治体、地域全体で支える。
医療の縮小を、単なる不安として終わらせるのではなく、持続可能な未来への再設計として捉えること。 今、医療機関にも、行政にも、そして私たち一人ひとりにも、その意識の変化が求められています。
365メディカルは、医療機関の制度対応・医療DXを支援します
365メディカルでは、医療機関の制度改正対応、WEB掲載、施設基準管理、医療DX、オンライン診療体制の整理など、 医療機関のバックオフィス業務を支援しています。
地域医療が大きく変化する今こそ、制度対応を単なる事務作業ではなく、経営と運営の再設計として捉えることが重要です。
365メディカルを見る引用・参考資料
- PwC Japanグループ「第25回『新たな地域医療構想』を読み解く」2025年1月16日
- 厚生労働省「我が国の人口について」
- 厚生労働省「新たな地域医療構想に関する論点について」
- 政府「医療DX推進計画」
- 厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集」2023年8月
- 事業構想オンライン「オンライン診療で医師偏在に対処」2026年2月
- GemMed「オンライン診療を2026年4月から医療法に位置づけ」2026年1月27日
- 佐々木総研「令和8年度診療報酬改定速報」2026年3月9日
- 慶應義塾大学・開志専門職大学 研究ノート「医療提供の地域格差解消に向けたオンライン診療の可能性」
- 三菱総合研究所「持続可能な地域医療・介護提供体制への処方箋」2026年5月1日
- 日経メディカル「進む人口減少、始まった医療の『縮小』」2026年6月18日
免責事項
本記事は、2026年6月時点で確認できる公表資料および関連情報をもとに、医療機関・医療関係者・地域医療に関心のある方に向けて一般的な情報提供を目的として作成したものです。
実際の医療法改正、オンライン診療の実施基準、診療報酬上の評価、届出要件等については、厚生労働省、都道府県、地方厚生局等が公表する最新の通知、省令、告示、疑義解釈等を必ずご確認ください。
本記事は、特定の医療行為、経営判断、制度対応を推奨または保証するものではありません。個別の対応については、行政窓口、専門家、顧問弁護士、社会保険労務士、医療コンサルタント等へご確認ください。