365メディカル|小規模クリニックの労基署対応

令和8年度、労基署への申告は
原則全件受理へ

小規模クリニックの医院長・事務長が今すぐ見直すべき、未払い残業代、36協定、賃金台帳、就業規則、休憩時間、過去3年分の労務リスクを解説します。

労基署対応 未払い残業代 36協定 過去3年分の確認 証跡管理

令和8年度の監督指導方針で、医療機関にとって見逃せない大きな変化が示されています。

それは、労働者などからの申告を、原則として全件受理していく方針です。

小規模クリニックや歯科医院では、「うちはスタッフと距離が近いから大丈夫」「昔からこのやり方で問題になっていない」と考えがちです。しかし、令和8年度以降は、その感覚のままでは危険です。

職員からの申告が、これまで以上に労基署対応につながりやすくなります。しかも、対象になるのは「令和8年度以降に起きたこと」だけではありません。未払い残業代などは、過去の勤務実態も確認対象になり得ます。

1. 今までと令和8年度から、労基署の対応は何が変わるのか

労働基準監督署の基本的な役割は、これまでも変わりません。

労働時間、賃金、休日、休憩、年次有給休暇、36協定、安全衛生などについて、労働基準関係法令に違反がないかを確認し、必要に応じて是正指導を行うことです。

しかし、令和8年度から特に注目されているのが、労働者などからの申告対応です。

報道によれば、令和8年度の監督指導方針では、労働基準関係法令に違反しないことが明白な場合を除き、労働者などからの申告を原則として受け付ける方針が示されています。

今までの感覚

労働者が労基署に相談しても、内容によっては「まずは事業主へ請求してください」「当事者間で話し合ってください」と案内される場面がありました。

医院側から見ると、職員の不満がすぐに労基署対応につながるケースは限定的だったかもしれません。

令和8年度からの感覚

職員が医院へ事前請求していなくても、労基署で申告として扱われる可能性があります。

医院長や事務長が気づかないうちに職員が労基署へ相談し、後日、労基署から突然連絡が来る流れがより現実的になります。

もちろん、申告が受理されたからといって、直ちにクリニック側の違反が確定するわけではありません。

しかし、入口の段階で受理されやすくなるということは、労基署から医院に対して、資料提出、事情確認、来署要請、臨検監督などが行われる可能性が高まるということです。

2. 「R8年度以前の事象」も対象になり得る

医院長・事務長が誤解してはいけないのは、令和8年度の方針だからといって、令和8年度以降の出来事だけが問題になるわけではない、という点です。

特に注意すべきなのが、未払い賃金、未払い残業代です。

賃金請求権については、2020年4月1日施行の労働基準法改正により、消滅時効期間が5年に延長されつつ、当分の間は3年とされています。つまり、令和8年度に職員から申告があった場合でも、過去3年分の勤怠記録、賃金台帳、給与明細、雇用契約書、36協定などを確認される可能性があります。

  • 毎朝15分早く出勤して準備していたが、労働時間に入っていなかった
  • 昼休み中も電話番をしていた
  • 診療後の片付けやレセプト作業が残業扱いされていなかった
  • 固定残業代と説明されたが、何時間分なのか聞いていない
  • 主任だから残業代は出ないと言われていた
  • パートなのに、契約時間を超えて働くのが当たり前になっていた

これらが令和8年度以前から続いていた場合、申告をきっかけに過去の運用まで確認される可能性があります。

小規模クリニックでよくある危険な状態

勤怠は紙のタイムカード、残業は院長の感覚、休憩は形式上だけ、雇用契約書は入職時のまま、36協定はいつ提出したか分からない、就業規則は古いまま、有給休暇管理簿がない、賃金台帳は会計事務所任せ。

この状態で過去3年分を説明しようとすると、非常に厳しくなります。

3. 数字で見る「原則全件受理」のインパクト

厚生労働省の労働条件ポータルサイトでは、労働基準監督官が取り扱う申告について、令和5年の申告受理件数は年間約2万件にのぼり、内訳は賃金不払に関するものが最も多く、次に解雇に関するものとされています。

また、労働基準監督の実施件数は近年、概ね年間17万件前後で推移しているとの分析もあります。

さらに、東京労働局が公表した令和6年の定期監督等の結果では、東京都内の労働基準監督署による定期監督等において、70.2%の事業場に法違反の改善指導が行われています。

約2万件 令和5年の申告受理件数
約17万件 年間の労働基準監督実施件数の目安
70.2% 東京労働局の定期監督等で改善指導が行われた割合

365メディカル独自試算:申告受理が増えた場合

ここからは、365メディカルの独自試算です。

令和5年の申告受理件数が約2万件だとすると、仮に令和8年度以降、入口段階での受理が広がり、申告受理件数が10%増えた場合、全国で約2,000件増加します。20%増えた場合は約4,000件、30%増えた場合は約6,000件増加する計算です。

+2,000件 10%増加した場合の推計
+4,000件 20%増加した場合の推計
+6,000件 30%増加した場合の推計

これは公表された将来予測ではありません。しかし、「原則全件受理」という方針が実務に浸透すれば、申告件数や申告をきっかけとする確認件数が増える可能性は十分にあります。

小規模クリニックで起こり得る未払い残業代の試算

たとえば、スタッフ1人が毎日15分、診療前の準備や診療後の片付けをしていたとします。

時給換算1,500円、月20日勤務、1日15分の未計上労働時間、割増賃金1.25倍として計算すると、1か月あたりの未払いリスクは9,375円です。

3年分では、337,500円。スタッフ1人で約34万円です。

これが5人いれば、約169万円。もし1日30分なら、5人で約337万円。時給換算が高い看護師、歯科衛生士、医療事務リーダー、主任クラスが対象になれば、さらに金額は大きくなります。

「たった15分」ではありません

3年分に積み上がると、クリニックの資金繰りに影響する金額になります。未払い残業代、休憩時間の未取得、固定残業代の不備が重なると、労務リスクはさらに大きくなります。

4. 今までの労基署対応で、クリニックに起こりやすかった指導例

医療機関における労基署対応では、実務上、次のような点が問題になりやすいとされています。

指導例1:診療前の準備時間が労働時間に入っていない

朝の清掃、レジ開け、予約確認、カルテ準備、診療室の準備、朝礼。これらをスタッフが医院の指示や慣習で行っている場合、労働時間と評価される可能性があります。

「診療開始は9時だから、勤務時間も9時から」。しかし実際には8時40分に出勤して準備している。この20分が毎日積み上がると、未払い賃金の論点になります。

指導例2:昼休み中に電話番をしている

休憩時間とされていても、電話が鳴ったら出る。患者が来たら対応する。業者対応をする。院内から離れられない。

このような状態では、完全に労働から解放されているとは言いにくく、休憩時間の扱いが問題になる可能性があります。

指導例3:36協定を出していない、または実態と合っていない

時間外労働や休日労働を行わせるには、36協定が必要です。しかし小規模クリニックでは、「昔、社労士さんに出してもらった気がする」「毎年更新が必要だと知らなかった」というケースがあります。

指導例4:固定残業代の説明が曖昧

「職務手当に残業代を含む」「管理手当に残業代込み」「給与は高めにしているから残業代は出ない」。このような説明だけでは、不十分な場合があります。

指導例5:事務長・主任を管理職扱いしている

事務長、主任、チーフ、マネージャーという肩書きがあっても、労働基準法上の管理監督者になるわけではありません。

出退勤の自由がない、経営上の重要な権限がない、採用・解雇・賃金決定に関与していない、待遇面で十分な差がない場合、管理職扱いをしていても残業代の支払い対象になる可能性があります。

5. 医院長・事務長が今すぐやらないといけないこと

令和8年度の方針を踏まえると、医院長・事務長がやるべきことは明確です。難しい制度論よりも、まずは「自院が説明できる状態になっているか」を確認してください。

1. 勤怠記録を確認する

  • 診療前の準備時間が記録されているか
  • 診療後の片付け・レセプト業務が反映されているか
  • 会議・研修・電話対応の時間を把握しているか

2. 36協定を確認する

  • 最新年度で届出されているか
  • 協定の控えがあるか
  • 実際の残業時間が協定の範囲内か

3. 賃金台帳・給与明細を確認する

  • 労働時間数、時間外労働時間数が記録されているか
  • 残業代が正しく計算されているか
  • 固定残業代の扱いが明確か

4. 雇用契約書を確認する

  • 勤務時間、休日、休憩、賃金が明確か
  • 実際の勤務実態とズレていないか
  • パート職員の契約内容が整理されているか

5. 就業規則を確認する

  • 常時10人以上の場合、作成・届出されているか
  • 有給休暇、休職、退職、懲戒の規定が最新か
  • 職員へ周知されているか

6. 休憩時間の実態を確認する

  • 電話番をしていないか
  • 受付対応や患者対応が入っていないか
  • 労働から完全に解放されているか

7. 退職者対応の記録を残す

  • 退職時の給与精算を確認したか
  • 有給休暇残日数を整理したか
  • 退職届、最終出勤日、貸与物返却を記録したか

8. 過去3年分のリスクを見る

  • 未計上の準備・片付け時間がないか
  • 固定残業代の説明が適正か
  • 管理職扱いが妥当か

6. 小規模クリニックが一番危ないのは「何となく運用」

小規模クリニックでは、医院長とスタッフの距離が近く、柔軟な運用がしやすい反面、ルールや記録が曖昧になりやすい傾向があります。

  • 忙しい日は少し残ってもらう
  • 昼休み中も電話だけ出てもらう
  • 主任だから残業はつけない
  • パートだけど、必要な日は少し長く働いてもらう
  • 有給は相談しながら取ってもらっている
  • 就業規則はあるが、あまり見たことがない

これらは、現場ではよくある運用です。しかし、労基署対応では、曖昧な運用はリスクになります。

令和8年度以降は、職員の申告をきっかけに、この「何となく運用」が表に出やすくなります。

そして、労基署から見られるのは、医院長の人柄ではありません。スタッフとの関係性でもありません。書類と記録と実態です。

7. 365メディカル視点の対応策

365メディカルでは、医療機関・歯科医院・薬局・訪問看護ステーション・介護事業所に向けて、制度対応、WEB掲示、証憑管理、業務改善、医療DX支援を行っています。

労務管理そのものの専門判断は、社会保険労務士や弁護士の専門領域です。しかし、クリニック経営の現場では、労務管理だけを切り離して考えることはできません。

労務書類の棚卸し

36協定、就業規則、雇用契約書、賃金台帳、有給休暇管理簿、健康診断記録の有無を確認します。

過去3年分の確認

未計上時間、休憩時間、固定残業代、管理職扱いなど、過去分のリスクを整理します。

専門家との連携

社労士・弁護士などの専門家と連携し、法的判断が必要な部分を切り分けます。

証跡管理の仕組み化

更新期限、改定履歴、職員説明記録、掲示内容を継続管理できる状態に整えます。

365メディカルの視点では、これからのクリニックに必要なのは、制度対応を「やっている」だけでなく、証明できる状態にすることです。

36協定、就業規則、賃金台帳、勤怠記録、有給休暇管理簿、健康診断記録、安全衛生管理、職員説明資料、院内掲示、施設基準、WEB掲示、厚生局提出資料。これらはすべて、医院経営における「説明責任」の資料です。

365メディカルへご相談ください

令和8年度は、小規模クリニックの医院長・事務長が労務管理を見直すタイミングです。

次のようなお悩みがある医療機関は、早めにご相談ください。

  • 36協定をいつ更新したか分からない
  • 就業規則が古いままになっている
  • 勤怠記録と実際の勤務時間にズレがある気がする
  • 退職者から残業代について問い合わせがあった
  • パート職員の契約内容と実態が合っているか不安
  • 労務書類や施設基準資料をまとめて管理したい
  • WEB掲示、証憑管理、制度対応をまとめて見直したい

365メディカルは、医療機関が制度対応を「属人的な管理」から「証跡に基づく管理」へ移行できるよう支援します。

365メディカルに相談する

まとめ:令和8年度は、クリニックの労務管理を後回しにできない

令和8年度の監督指導方針では、労働者などからの申告を原則全件受理していく方針が示されています。

これは、小規模クリニックにとって非常に重要な変化です。

今までは表に出なかった職員の不満が、労基署への申告という形で表面化する可能性があります。しかも、対象は令和8年度以降だけではありません。未払い賃金などは、過去3年分が問題になる可能性があります。

「うちは大丈夫」ではなく、説明できるかが重要です。

労基署対応は、起きてから慌てるものではありません。起きる前に、記録を整え、専門家と連携し、説明できる状態を作るものです。

不安を感じた今が、自院のリスクを点検する最適なタイミングです。

引用・参照

  • 厚生労働省「令和8年度地方労働行政運営方針」の策定について
  • 労働新聞社「申告は原則すべて受理を 請求行為前提にせず――厚労省」
  • 厚生労働省「確かめよう労働条件|労働基準監督官が取り扱う申告」
  • 厚生労働省「賃金請求権の消滅時効が変わったと聞きました。どのようになったのでしょうか?」
  • 東京労働局「東京都内の労働基準監督署における令和6年の定期監督等の実施結果」
  • 富山綜合法律事務所「医療機関における労働基準監督署対応のポイント」

免責事項

本記事は、令和8年度の労働行政運営方針、監督指導方針、労働基準監督署の実務動向に関する公開情報を基に、医療機関向けに一般的な実務上の注意点を整理したものです。

本文中の試算は、365メディカルが小規模クリニックの一般的な勤務実態を想定して作成した参考例であり、実際の未払い賃金額、法的責任、行政対応の有無を示すものではありません。

個別の労務トラブル、未払い賃金、36協定、就業規則、安全衛生、労働時間管理、管理監督者性、業務委託と労働者性の判断等については、医療機関ごとの勤務実態、雇用契約、就業規則、賃金規程、職員構成等により判断が異なります。

具体的な対応については、社会保険労務士、弁護士、所轄労働基準監督署等の専門機関にご相談ください。

365メディカルは、医療機関の制度対応、証跡管理、WEB掲示、業務改善、医療DX支援の観点から情報提供を行うものであり、本記事は法的助言を目的とするものではありません。

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