契約書
責任範囲が文書化されているか
医療情報安全管理ガイドライン第7.0版で示された「保守委託機関編」。小規模クリニックを助ける仕組みである一方、契約書と責任分界を誤ると、医療機関側に大きなリスクが残ります。
「ITのことはよくわからないから、電子カルテ会社に任せています」「院内に専門担当者はいないので、ネットワークも保守会社に見てもらっています」。小規模クリニックでは、このような運用が一般的です。
しかし、医療情報安全管理ガイドライン第7.0版では、外部委託を前提とした現実的な対応が整理される一方で、医療機関側の責任がなくなるわけではありません。厚生労働省の資料では、委託先事業者の選定や管理を適切に行うこと、非常時の業務継続の判断基準を整理することなどが示されています。
365メディカルでは、医療DXは単に便利なシステムを導入することではなく、患者情報を安全に扱い、診療を止めないための体制づくりだと考えています。本記事では、保守委託機関編の意味と、医院長・事務長が確認すべき実務ポイントを整理します。
保守委託機関編を理解するうえで重要なのは、自院がどこまでIT管理を事業者へ委託しているかです。特に、電子カルテ、レセコン、サーバー、クラウドサービス、ネットワーク機器のセキュリティアップデートについて、誰が責任を持つのかを確認する必要があります。
電子カルテ、レセコン、予約、VPN、バックアップを洗い出す
アップデート、障害対応、復旧支援の担当を確認する
契約書・SLA・約款に明記されているか確認する
ここで最も危険なのは、「実際には保守会社が対応しているから大丈夫」と思い込むことです。実務上は対応してくれていても、契約書やSLAに明記されていなければ、非常時に責任範囲が曖昧になります。
責任範囲が文書化されているか
認証・体制・資料提出を確認
自院管理を減らす設計へ
止まった時の診療継続策
外部接続の入口を塞ぐ
保守委託機関編で最初に確認すべきなのは、セキュリティアップデートや障害対応の責任が契約上どこにあるかです。電子カルテ、レセコン、サーバー、VPN機器、バックアップ、クラウドサービスについて、誰が何を担当するかを一覧化します。
契約書に記載がないまま「ベンダーがやってくれているはず」と考えるのは危険です。契約上の責任が曖昧な場合、インシデント時に医療機関側が説明できないリスクがあります。
保守を外部へ委託しても、委託先を選ぶ責任は医療機関側に残ります。専門知識がなくても、確認できることはあります。プライバシーマーク、ISMS、ISMAPなどの認証、医療情報システムへの対応実績、MDS/SDSの提出可否、障害時の対応体制などです。
特に新規導入・更新時には、二要素認証への対応可否、バックアップの復旧手順、VPNやリモート保守のログ管理を確認することが重要です。
専門のIT担当者がいない医療機関では、院内サーバーを自院で管理するよりも、クラウド型電子カルテや予約システムなどのSaaSを活用した方が、保守負担を抑えられる場合があります。
ただし、SaaSであっても「安全かどうか」は確認が必要です。その確認に使うのが、MDS/SDSです。MDS/SDSは、製品やサービスのセキュリティ機能、運用体制、委託範囲を医療機関が確認するための資料です。JAHIS/JIRA等は、製造業者・サービス事業者による医療情報セキュリティ開示書の標準書式を整備しています。
どれほど優れたシステムを使っていても、サイバー攻撃、通信障害、クラウド障害、停電は起こり得ます。重要なのは、システムが止まった時に診療をどう続けるかです。
厚生労働省のガイドライン関連資料では、短時間のシステム障害なら他の手段で診療を継続し、回復に数日以上を要する場合は診療縮小や紙を用いた対応に切り替えるなど、判断基準と対応策を整理することが示されています。
過去のサイバー攻撃では、VPN機器の脆弱性や、外部保守用アカウントの管理不備が問題になるケースがありました。リモート保守は便利ですが、外部から院内システムへ入る入口でもあります。
医療機関は、VPN機器のアップデート責任、接続ログ、二要素認証、保守作業後の切断、保守用IDの管理について、ベンダーへ明確に確認する必要があります。
保守委託機関編を活かすためには、契約書を単なる保管書類ではなく、医療機関を守るための盾として使う必要があります。以下の項目を、契約書・約款・SLA・仕様書で確認してください。
| 確認項目 | 確認する内容 | 未確認の場合のリスク |
|---|---|---|
| セキュリティアップデート | OS、サーバー、電子カルテ、VPN機器の更新責任 | 脆弱性放置時の責任が曖昧になる |
| リモート保守 | 接続方法、接続許可、接続ログ、保守用IDの管理 | 不正アクセスの入口になる |
| 障害対応 | 対応時間、夜間休日対応、一次切り分け | 診療時間中に復旧が遅れる |
| バックアップ | 保存場所、世代管理、隔離性、復旧テスト | バックアップがあっても戻せない |
| サイバー攻撃時支援 | ログ提供、調査支援、行政報告資料作成支援 | 初動対応と報告が遅れる |
| 再委託 | 再委託先の有無、管理責任、情報管理 | 責任の所在が見えにくくなる |
IT管理を外部へ委託していても、診療は外部委託できません。システムが止まった時に、患者をどう受け入れ、診療をどう続け、会計や処方をどう行うかは、医療機関側で決めておく必要があります。
| 場面 | 決めておくこと | 準備物 |
|---|---|---|
| 受付 | 予約情報が見られない場合の受付方法 | 紙受付簿、患者連絡先確認票 |
| 診察 | 電子カルテ停止時の診療記録方法 | 紙カルテ様式、診療メモ用紙 |
| 処方 | 処方履歴が見られない場合の確認方法 | お薬手帳確認フロー、薬局連絡先 |
| 会計 | レセコン停止時の仮会計・後日精算 | 仮領収書、後日精算案内 |
| 患者説明 | システム障害時の説明責任 | 掲示文、電話対応スクリプト |
BCPは大病院だけのものではありません。小規模クリニックであっても、電子カルテやレセコンが止まれば患者対応に支障が出ます。最低限、紙運用へ切り替える判断基準と、復旧までの院内役割分担を決めておくべきです。
電子カルテ、レセコン、予約、VPN、バックアップを整理
誰がアップデート責任を持つかを文書で確認
MDS/SDS、SLA、構成図、緊急連絡先を集める
管理者アカウント、VPN、クラウドに二要素認証を検討
365メディカルでは、医療DXを「システム導入」だけで捉えていません。医療機関が患者情報を安全に扱い、診療を止めず、施設基準やWEB掲示、証憑管理まで含めて継続的に管理できる体制を整えることが重要だと考えています。
保守委託機関編は、小規模医療機関を締め出すためのものではありません。むしろ、SaaSや外部専門家を上手に使い、限られた人員でも安全管理を現実的に進めるための道筋です。
医療情報安全管理ガイドライン第7.0版が示しているのは、ITを自院ですべて抱え込むことではありません。重要なのは、専門家に任せる部分と、医療機関が経営判断として管理すべき部分を分けることです。
電子カルテ会社や保守会社は重要なパートナーです。しかし、契約内容、責任分界、MDS/SDS、SLA、VPN管理、BCPを確認しないまま任せることは、丸投げに近い状態です。
まずは、契約書を開き、自院のサーバー、端末、VPN、クラウドサービス、バックアップを誰が守ることになっているのかを確認してください。そこから、医療DX時代の安全管理は始まります。
365メディカルでは、医療機関がWEB上で整理すべき情報、施設基準、証憑管理、医療DX対応を支援しています。制度改定やガイドライン対応に不安がある場合は、まずは現状整理からご相談ください。
医療情報システムの保守やセキュリティ更新などを外部事業者へ委託している医療機関を指す考え方です。委託していても、事業者選定や契約内容確認は医療機関側の重要な責任です。
医療機関とベンダーの間で、誰が何をどこまで担当するかを明確にすることです。契約書、SLA、約款で文書化することが重要です。
製造業者・サービス事業者による医療情報セキュリティ開示書です。製品やクラウドサービスのセキュリティ機能、運用体制、委託範囲を確認するために使います。
Software Bill of Materialsの略で、ソフトウェア部品表のことです。ソフトウェアがどの部品で構成されているかを把握し、脆弱性発見時の影響確認に役立ちます。
Service Level Agreementの略で、サービスレベル合意書です。障害時の対応時間、保守範囲、復旧目標などを明確にする文書です。
Software as a Serviceの略で、クラウド上で提供されるソフトウェアサービスです。クラウド型電子カルテや予約システムなどが該当します。
Virtual Private Networkの略です。外部から院内システムへ接続する際に使われる仕組みで、リモート保守では接続管理やログ管理が重要になります。
パスワードに加え、スマートフォンアプリ、ワンタイムコード、ICカード、生体認証などを組み合わせて本人確認を行う仕組みです。
Business Continuity Planの略で、事業継続計画です。医療機関では、災害やサイバー攻撃、システム障害時にも診療を継続するための計画を指します。
ネットワークから切り離された状態で保管するバックアップです。ランサムウェア攻撃時にバックアップまで暗号化されるリスクを下げます。