業者任せの限界
保守契約・責任分界を明確にする必要があります。
「業者に任せています」では済まされない時代へ。 医院長・事務長が押さえるべき、医療DX時代のサイバーセキュリティ対策をわかりやすく解説します。
電子カルテ、レセコン、オンライン資格確認、電子処方箋、予約システム、検査会社とのデータ連携、クラウド型の業務管理システム。 これらは、いまや多くの医療機関にとって欠かせない存在です。
一方で、こうしたシステムが止まった瞬間、診療そのものが大きく混乱します。 患者情報が見られない、処方内容が確認できない、会計ができない、予約状況が把握できない。 つまり、医療DXが進むほど、システム停止はそのまま医療提供体制の停止につながります。
厚生労働省は、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを継続的に整備しており、 第6.0版では経営管理編・企画管理編・システム運用編などに分けて、経営層にも理解しやすい構成へ見直されました。 第7.0版では、医療DX時代のサイバーセキュリティ対策をさらに実効性あるものにする方向で議論が進められています。
医療情報システムの安全管理は、単なる技術問題ではありません。 診療を止めないための経営判断であり、患者情報を守るための組織体制づくりです。
医院長・事務長がまず押さえるべきポイントは、次の5つです。 難しい専門用語をすべて覚える必要はありません。 重要なのは、自院のシステム、契約、ID、バックアップ、緊急時の対応を「見える化」することです。
保守契約・責任分界を明確にする必要があります。
定期変更より、使い回し禁止・ID管理が重要になります。
外部接続や管理者アカウントから優先対応が必要です。
システムの安全性を資料で確認する時代になります。
「取っている」ではなく「復旧できる」ことが重要です。
今回の見直しで特に重要なのは、医療機関とシステム事業者の責任分界です。 これまでは、電子カルテやレセコンについて「保守会社に任せています」という説明で済ませていた医療機関も少なくありません。
しかし、サイバー攻撃やシステム障害が発生した場合、必要になるのは「実際に誰が何を担当するのか」が明確になった契約・運用体制です。 口頭での説明や、担当者同士の暗黙の了解では不十分です。
| 確認項目 | 確認する内容 | 医院長・事務長が見るポイント |
|---|---|---|
| アップデート | OS、ソフトウェア、電子カルテ、レセコンの更新責任 | 誰が、いつ、どの範囲まで対応するか |
| リモート保守 | 外部からの接続方法、接続記録、許可手順 | 常時接続になっていないか、接続ログが残るか |
| 障害対応 | 障害発生時の連絡先、対応時間、初動対応 | 夜間・休日・診療時間中の対応範囲 |
| インシデント対応 | サイバー攻撃が疑われる場合の調査・報告支援 | ログ確認や報告資料作成を支援してもらえるか |
| 再委託 | 保守会社がさらに別会社へ委託しているか | 再委託先の管理責任が明確か |
特に、複数のクラウドサービスや外部システムを組み合わせて使っている医療機関では、責任のすき間が生まれやすくなります。 電子カルテ、予約システム、検査連携、メール、ホームページ、問い合わせフォームなど、それぞれの管理者を一覧化することが重要です。
多くの医療現場では、数か月ごとにパスワードを変更する運用が行われてきました。 しかし、定期変更を強制すると、かえって似たようなパスワードを使い回したり、付箋に書いてしまったりする問題が起こりやすくなります。
これから重要になるのは、「頻繁に変えること」ではなく、「不正に使われない状態を維持すること」です。
| 従来の考え方 | これからの考え方 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 定期的に変更すれば安全 | 推測されにくく、使い回さないことが重要 | パスワードポリシーの見直し |
| 共用IDでも運用できればよい | 誰が操作したか追跡できることが重要 | 個人IDへの切り替え |
| 退職者IDは後で削除すればよい | 退職・異動時に即時停止する | ID棚卸しルールの整備 |
| 管理者権限は多い方が便利 | 必要最小限の権限にする | 権限管理表の作成 |
パスワードだけで医療情報システムを守る時代は、終わりに近づいています。 今後は、二要素認証への対応が重要になります。
二要素認証とは、パスワードに加えて、スマートフォンアプリ、ワンタイムコード、ICカード、生体認証など、別の要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。
電子カルテ、予約、会計、メールなどの管理画面。
外部ベンダーが院内システムへ接続する経路。
外部からアクセスできる業務システム。
電子カルテ更新時の選定条件に入れる。
小規模クリニックでは、診療中の操作負担を考える必要があります。 すべての端末で一斉に厳格な認証を入れると、現場が混乱することもあります。
そのため、現実的には「外部から入れる場所」「管理者権限を持つアカウント」「リモート保守」から優先的に強化し、 次期システム更新時に全体設計を見直す流れが有効です。
医療機関がシステムを選ぶ際、これまでは価格、操作性、サポート体制が中心でした。 しかし、医療DX時代には「そのシステムが安全に運用できるか」も重要な選定基準になります。
そこで重要になるのが、MDS/SDSとSBOMです。
| 用語 | 意味 | 医療機関での使い方 |
|---|---|---|
| MDS/SDS | 医療情報システムのセキュリティ機能や運用体制を説明する開示資料 | ベンダー選定時、契約時、更新時に提出を求める |
| SBOM | ソフトウェアを構成する部品表 | 脆弱性が見つかった際、自院システムへの影響確認に使う |
| SLA | サービスレベル合意書 | 障害時対応、保守範囲、復旧目標などを確認する |
医療機関側がこれらを技術的にすべて判断するのは簡単ではありません。 しかし、「資料を提出してもらう」「不明点を質問する」「契約時に確認する」ことはできます。
これからの医療機関には、ベンダーに任せるだけでなく、ベンダーと対話し、必要な説明を求める姿勢が求められます。
多くの医療機関では、「バックアップは取っています」と説明されます。 しかし、本当に重要なのは、バックアップが存在することではありません。 インシデント発生時に復旧できる状態で守られているかです。
ランサムウェア攻撃では、院内ネットワーク上のデータだけでなく、接続されたバックアップ領域まで暗号化されることがあります。 そのため、オンラインで常時接続されたバックアップだけでは不十分な場合があります。
| 確認項目 | 確認内容 | 未確認の場合のリスク |
|---|---|---|
| 保存場所 | バックアップがどこに保存されているか | 同時に暗号化・消失する可能性 |
| 隔離性 | ネットワークから切り離された保存先があるか | ランサムウェア被害時に復旧不能になる可能性 |
| 復旧時間 | 復旧まで何時間・何日かかるか | 外来診療や会計業務が長期間止まる可能性 |
| 復旧担当 | 誰が復旧作業を行うか | 緊急時に連絡先がわからず初動が遅れる |
| 代替運用 | 紙カルテ・紙受付・紙会計への切替手順 | システム停止中に診療継続できない |
BCPは、災害時だけのものではありません。 サイバー攻撃、システム障害、通信障害、パンデミックなど、診療継続を脅かす事態に備えるための経営計画です。
ここまで読むと、「小規模なクリニックには負担が大きすぎる」と感じるかもしれません。 しかし、最初から高度な対策をすべて導入する必要はありません。 まずは、現状を見える化することが重要です。
電子カルテ、レセコン、予約、メールなどを一覧化。
保守契約、SLA、責任分界を確認。
ID、外部接続、バックアップの弱点を洗い出す。
二要素認証、BCP、次期更新条件を計画化。
医療DXは、単にシステムを入れることではありません。 医療機関が安全に情報を扱い、患者に継続して医療を提供できる体制を整えることまで含めて、医療DXです。
365メディカルでは、医療機関のWEB掲示、施設基準管理、医療DX対応、証憑管理、文書管理を支援しています。 今後は、医療情報システムの安全管理についても、医院長・事務長が把握しやすい形で整理していく必要があります。
医療情報安全管理ガイドライン第7.0版の方向性は、医療機関に対して明確なメッセージを投げかけています。
それは、医療情報システムの安全管理を「業者任せ」にせず、経営者が把握し、判断し、必要な資源を配分する時代になったということです。
小規模クリニックであっても、電子カルテが止まれば診療は混乱します。 予約情報が見られなければ患者対応に支障が出ます。 レセコンが使えなければ会計や請求にも影響します。
まずは難しい専門用語を覚えるよりも、自院のシステム、契約、ID、バックアップ、緊急連絡先を整理することから始めてください。
365メディカルでは、医療機関がWEB上で整理すべき情報、施設基準、証憑管理、医療DX対応を支援しています。 制度改定やガイドライン対応に不安がある場合は、まずは現状の整理からご相談ください。
医療情報安全管理ガイドライン第7版の話になると、MDS、SDS、SBOM、SLA、BCPなど、普段の医療現場ではあまり聞き慣れない言葉が出てきます。 しかし、これらは決してIT専門家だけの用語ではありません。
これからの医療機関経営では、電子カルテ、レセコン、予約システム、クラウドサービスなどを安全に使うために、医院長・事務長も意味を理解しておく必要があります。 ここでは、特に重要な用語をわかりやすく整理します。
MDSとは、Manufacturer Disclosure Statement for Medical Information Securityの略で、日本語では「製造業者による医療情報セキュリティ開示書」と呼ばれます。
簡単に言うと、医療情報システムのメーカーが、自社製品のセキュリティ機能や安全管理に関する情報を医療機関向けに整理した資料です。 たとえば、電子カルテ、レセコン、画像管理システム、検査システムなどを導入する際に、その製品がどのようなセキュリティ機能を持っているのかを確認するために使います。
MDSでは、次のような内容を確認できます。
JAHISによると、MDSは製造業者による製品のセキュリティに関する説明を標準書式とすることを想定して作成されたものです。
SDSとは、Service Disclosure Statement for Medical Information Securityの略で、サービス事業者が提供する医療情報サービスのセキュリティ情報を開示する資料です。 MDSが「製品」を対象にした資料であるのに対し、SDSは主に「サービス」を対象にした資料と考えるとわかりやすいです。
たとえば、次のようなサービスで関係してきます。
クラウドサービスの場合、医療機関の中にサーバーがあるわけではありません。データは外部のクラウド環境に保存され、サービス事業者が管理していることが多くなります。 そのため、医療機関としては「どこまで事業者が責任を持つのか」「障害時にどう対応するのか」「データはどこに保管されるのか」「再委託先はあるのか」を確認する必要があります。
SDSは、こうしたクラウドサービスや外部サービスの安全性を確認するための資料です。JAHISでは、Ver.4.0でサービス事業者が提供する医療情報サービスを対象としたSDSが追加されたと説明されています。
MDSとSDSは、どちらも医療情報システムのセキュリティを確認するための資料ですが、対象が少し違います。
| 用語 | 主な対象 | わかりやすい例 | 医療機関での使い方 |
|---|---|---|---|
| MDS | 製品・システム | 電子カルテ、レセコン、画像管理システム | 製品のセキュリティ機能を確認する |
| SDS | サービス | クラウド電子カルテ、予約システム、オンライン診療サービス | サービス運用体制や委託範囲を確認する |
つまり、院内に導入するシステムや製品について確認するのがMDS、クラウド型サービスや外部サービスについて確認するのがSDS、というイメージです。 医療機関が新しいシステムを導入する際には、見積書やパンフレットだけでなく、MDSやSDSの提出が可能かを確認することが重要になります。
SBOMとは、Software Bill of Materialsの略で、日本語では「ソフトウェア部品表」と呼ばれます。 簡単に言えば、ソフトウェアがどのような部品で作られているかを示す一覧表です。
たとえば、電子カルテや予約システム、クラウドサービスは、すべて一から独自に作られているわけではありません。 実際には、さまざまなソフトウェア部品、ライブラリ、外部プログラムを組み合わせて作られています。 SBOMは、そのソフトウェアの中にどの部品が使われているかを把握するための資料です。
経済産業省は、SBOMを「ソフトウェア部品表」と呼び、ソフトウェアの脆弱性管理に活用する手法として注目されていると説明しています。
SBOMが重要になるのは、脆弱性が発見されたときです。あるソフトウェア部品に重大な脆弱性が見つかった場合、SBOMがあれば、自院で使っているシステムにその部品が含まれているかを確認しやすくなります。
SLAとは、Service Level Agreementの略で、日本語では「サービスレベル合意書」と呼ばれます。 これは、サービス提供会社と利用者の間で、提供するサービスの範囲や品質、対応時間などを明確にするための取り決めです。
医療機関にとって重要なのは、次のような項目です。
たとえば、「電子カルテが止まったときに、何時間以内に対応してもらえるのか」「診療時間中の障害は優先対応されるのか」「バックアップから復旧する作業は契約に含まれるのか」といったことを確認するために重要です。 SLAが曖昧なままだと、障害時に「それは契約対象外です」と言われる可能性があります。
BCPとは、Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。 医療機関におけるBCPとは、災害、サイバー攻撃、システム障害、通信障害、感染症の流行などが起きた場合でも、できる限り診療を継続するための計画です。
医療機関の場合、BCPは単なる経営計画ではありません。 患者対応、診療、処方、会計、紹介、検査、行政対応など、医療提供をどう続けるかに直結します。
たとえば、次のようなことを決めておく必要があります。
厚生労働省の医療情報システム安全管理ガイドライン関連ページでも、医療機関向けのサイバーセキュリティ対策チェックリストや、サイバー攻撃を想定したBCP策定の確認表が公開されています。
VPNとは、Virtual Private Networkの略で、外部から院内システムへ安全に接続するための仕組みです。 たとえば、電子カルテ会社や保守会社が、院外から院内のサーバーに接続してメンテナンスを行う場合に使われることがあります。
VPNそのものは便利な仕組みですが、設定や管理が不十分だと、不正アクセスの入口になる可能性があります。
医療機関では、次の点を確認することが重要です。
リモート保守を受けている医療機関では、VPNや外部接続の管理状況を必ず確認しておきたいところです。
二要素認証とは、本人確認を2つの要素で行う仕組みです。 たとえば、パスワードに加えて、スマートフォンアプリの確認コード、ワンタイムパスワード、ICカード、生体認証などを組み合わせます。
パスワードだけの場合、漏えいしたり推測されたりすると、不正ログインされる可能性があります。 しかし、二要素認証を導入していれば、パスワードが知られても、もう一つの認証要素がなければログインできません。
医療機関で特に優先すべきなのは、次のような場所です。
すべての端末に一斉導入するのが難しい場合でも、まずは外部からアクセスできる場所、管理者権限を持つアカウント、リモート保守接続から優先的に対応することが現実的です。
オフラインバックアップとは、ネットワークから切り離された状態で保管するバックアップのことです。 通常のバックアップは、院内ネットワークやクラウド環境に接続された状態で保存されていることがあります。 しかし、ランサムウェア攻撃を受けた場合、接続されたバックアップデータまで暗号化される可能性があります。
そのため、ネットワークから切り離したバックアップを用意しておくことが重要になります。 オフラインバックアップは、攻撃者の手が届きにくい場所にデータを逃がしておく考え方です。
医療機関では、次のような確認が必要です。
MDS、SDS、SBOMなどの用語を理解したうえで、医療機関が実際にベンダーへ確認すべき質問は次のとおりです。
これらの質問に明確に答えられるかどうかは、ベンダーの安全管理体制を判断する材料になります。
MDS、SDS、SBOMという言葉は、最初は難しく感じるかもしれません。 しかし、医療機関の視点で考えると、目的はとてもシンプルです。
医院長・事務長に求められているのは、これらを技術者のように細かく理解することではありません。 大切なのは、自院のシステムについて、必要な資料を提出してもらい、契約内容を確認し、緊急時に誰が何をするのかを明確にしておくことです。
医療DXが進むほど、システムは診療の土台になります。その土台を守るために、MDS、SDS、SBOMなどの用語は、これからの医療機関経営において避けて通れない確認項目になっていきます。