予防接種の現場に長く残ってきた紙の予診票、接種券、接種記録、自治体への報告業務。東京都利島村で始まった予防接種事務デジタル化の事例は、単なる紙の電子化ではなく、医療機関の安全管理、事務効率化、証憑管理、地域医療DXを一体で見直す重要な転換点です。
予防接種の現場には、長く続いてきた「紙」の業務があります。
自治体から届く接種券や予診票。保護者が手書きする氏名・住所・既往歴。医療機関で確認する接種間隔や対象年齢。接種後に発生する記録、請求、自治体への報告。
患者や保護者にとっては、何度も同じ情報を書く負担があります。医療機関にとっては、接種間違いを防ぐための確認、紙の予診票管理、請求事務、自治体とのやり取りが大きな負担になっています。
この予防接種事務が、いよいよ本格的にデジタル化へ進み始めています。
厚生労働省は、予防接種のデジタル化について、スマートフォン等で接種のお知らせを受け取り、接種記録をいつでも閲覧できること、デジタル予診票によって手書きの負担が軽減されることをメリットとして示しています。また、医療機関側には、接種記録をシステムで確認しやすくなり、接種間違いの防止につながること、接種記録を登録することで費用請求が完了し、紙書類の郵送が不要になることが示されています。
365メディカルでは、この流れを単なる「紙の電子化」ではなく、医療機関の安全管理、事務効率化、証憑管理、地域医療DXを一体で見直す重要な転換点と捉えています。
1. 小さな村から始まった予防接種DX
2026年6月、東京都利島村で、予防接種事務デジタル化に対応した医療機関アプリ「mila-e 予防接種」の運用が開始されました。
株式会社ミラボの発表によると、同社は厚生労働省が推進する予防接種事務デジタル化に対応した医療機関アプリとして、2026年6月より「mila-e 予防接種」の提供を開始し、東京都利島村では2026年6月18日から運用を開始したとされています。また、この事例は、予防接種事務デジタル化に対応した医療機関アプリの自治体導入として全国初と説明されています。
この事例が重要なのは、単に新しいアプリが導入されたからではありません。
むしろ注目すべきは、大都市の大規模病院ではなく、伊豆諸島の小規模自治体から、予防接種DXの具体的な運用が始まったという点です。
医療DXの本質は、大規模病院だけの高度なシステム導入ではありません。日常の医療・保健業務を、安全に、正確に、効率よくつなぐことにあります。
予防接種は、その代表的な領域です。小児の定期接種、高齢者の定期接種、任意接種、自治体助成、接種履歴、接種間隔、対象年齢、費用請求。これらは、医療機関・自治体・住民が密接に関わる業務です。
ここがデジタル化されることは、地域医療DXの入口として非常に大きな意味を持ちます。
2. 予防接種DXは、患者・保護者の負担を減らす
予防接種のデジタル化で、まず変わるのは患者や保護者の体験です。
厚生労働省の国民向けページでは、デジタル化によって、マイナポータルから予防接種の予診票入力情報と接種記録を確認できるようになると説明されています。また、デジタル化に対応した医療機関では、マイナ保険証の利用により、本人や保護者が入力した予診票の内容、過去の接種記録を確認できるようになるとされています。
これまで、保護者は予診票に住所、氏名、生年月日、既往歴、体調などを何度も手書きしていました。複数の子どもがいる家庭では、接種のたびに書類を管理し、母子手帳を確認し、接種スケジュールを把握する必要がありました。
デジタル予診票が普及すれば、こうした手書きの負担は大きく減ります。
さらに、接種記録がマイナポータル等で確認できるようになれば、「前回いつ接種したのか」「次は何を接種すべきか」といった情報を確認しやすくなります。
これは単なる利便性向上ではありません。接種忘れの防止、接種間隔の確認、母子保健との連携、高齢者の予防接種管理にもつながります。
3. 医療機関にとっての最大の価値は「接種間違いの防止」
医療機関にとって、予防接種DXの最大の価値は、事務負担の削減だけではありません。
最も重要なのは、接種間違いの防止です。
予防接種では、対象年齢、接種間隔、過去の接種履歴、ワクチンの種類、同時接種の可否など、確認すべき項目が多くあります。小児の定期接種では、保護者が持参する母子手帳や紙の予診票を確認しながら、医師や看護師、事務スタッフが慎重に判断しているのが現場の実情です。
厚生労働省は、医療機関側のメリットとして、接種記録をシステムで容易に確認でき、接種間違いを防止できることを示しています。
紙の予診票や手作業の確認に依存する運用では、どうしてもヒューマンエラーのリスクが残ります。もちろん、最終的な医療判断は医師が行うものですが、デジタルによって過去の接種記録や対象条件を確認しやすくなれば、現場スタッフの心理的負担も軽減されます。
ミラボの「mila-e 予防接種」では、入力漏れや誤入力の防止、医療機関に設置したQRコードを利用者のスマートフォンで読み取ることによる予診票提出、月別・ワクチン別の接種本数の自動集計などが紹介されています。
予防接種DXは、医療機関の事務を軽くするだけでなく、接種記録確認、対象年齢確認、接種間隔確認を支える医療安全の仕組みとして考える必要があります。
4. PMHによって、自治体・医療機関・住民がつながる
予防接種DXを理解するうえで重要なのが、PMHです。
PMHとは、Public Medical Hubの略で、自治体、医療機関、薬局、国などをつなぎ、健康・医療・介護分野の情報連携を進める仕組みです。
デジタル庁は、PMHのメリットとして、予防接種・母子保健分野では、事前に予診票や問診票をスマートフォン等で入力し、マイナンバーカードを接種券・受診券として利用できるようになること、マイナポータルから接種勧奨・受診勧奨を行い、接種・健診忘れを防ぐこと、接種履歴や健診結果がリアルタイムにマイナポータル上で確認できるようになることを示しています。
これは、医療機関にとっても大きな変化です。
これまで、自治体と医療機関の間では、紙の接種券、紙の予診票、紙の請求書類、郵送、手入力が多く残っていました。PMHが進むことで、自治体、医療機関、住民の間で必要な情報がデジタルで連携され、事務の重複や入力ミスを減らせる可能性があります。
特に、小児科、内科、耳鼻咽喉科、産婦人科、在宅医療、訪問看護、介護連携を行う医療機関では、PMHの進展は今後の業務フローに直接影響していきます。
5. 自治体にとっては、印刷・郵送・入力作業の見直しにつながる
予防接種DXは、自治体にとっても大きな意味があります。
厚生労働省は、自治体側のメリットとして、お知らせのデジタル通知等により、接種券等の印刷や郵送事務を削減できること、接種記録がシステムに直接登録されるため、入力作業が不要になることを示しています。
自治体の予防接種事務では、対象者への通知、接種券や予診票の印刷・発送、医療機関から返送される紙書類の確認、接種記録の入力、費用請求処理など、多くの作業が発生します。
小規模自治体では、担当職員が限られており、紙書類の管理や入力作業が大きな負担になります。一方、大規模自治体では対象者数が多く、印刷・郵送・確認・入力のボリュームが膨大になります。
つまり、自治体の規模にかかわらず、予防接種事務のデジタル化は重要です。
利島村のような小規模自治体で先行事例が生まれたことは、全国の自治体にとっても参考になります。既存の大規模システムや複雑な運用に縛られにくいからこそ、シンプルで住民に近い形のDXが実現しやすい面があります。
6. 医療機関は「導入されたら対応する」では遅い
ここで、365メディカルとして強調したいことがあります。
予防接種DXは、自治体が導入してから医療機関が対応すればよい、という話ではありません。実際には、医療機関側にも準備が必要です。
特に重要なのは、紙とデジタルが混在する移行期です。
すべての患者がすぐにデジタル予診票を使えるわけではありません。スマートフォン操作が苦手な方、マイナンバーカードを持参しない方、保護者以外が付き添うケース、通信障害が起きるケースも想定されます。
医療機関は、デジタル化によって効率化できる部分と、対面で丁寧に説明すべき部分を切り分ける必要があります。
予防接種DXは、医療情報システム安全管理の対象でもある
予防接種DXでは、患者情報、接種記録、予診情報、保護者情報、自治体助成情報など、重要な個人情報を扱います。
そのため、単にアプリを導入するだけでは不十分です。医療情報システム安全管理、委託先管理、アクセス権限、ログ管理、障害時対応、バックアップ、責任分界、患者説明、同意取得などを整理する必要があります。
特に、医療機関が外部システムや自治体連携システムを利用する場合、「どこまでが医療機関の責任で、どこからがシステム事業者や自治体側の責任なのか」を明確にしておくことが重要です。
これは、365メディカルが提供を予定している医療情報システム安全管理MSOや、365Registry、医療機関WEB掲示サポートと深く関わる領域です。
365メディカルが考える、予防接種DX対応の進め方
365メディカルでは、医療機関が予防接種DXに備えるためには、次の5つの視点が重要だと考えています。
この5つを整理することで、予防接種DXは単なる事務効率化ではなく、医療安全と患者体験を高める取り組みになります。
まとめ|予防接種DXは、地域医療DXの入口になる
利島村の事例は、小さな村のローカルニュースではありません。それは、全国の医療機関、自治体、患者・保護者がこれから向き合う予防接種DXの先行事例です。
予防接種のデジタル化によって、患者や保護者は手書きの負担を減らし、接種記録を確認しやすくなります。医療機関は、接種記録を確認しやすくなり、接種間違いの防止や請求事務の効率化が期待できます。自治体は、印刷・郵送・入力作業を削減し、接種状況をより把握しやすくなります。
しかし、医療機関にとって本当に重要なのは、アプリを使うことではありません。
デジタル予診票、マイナ保険証、接種記録、自治体連携、医療情報システム安全管理、WEB掲示、証憑管理を一体で整えることです。
365メディカルは、365Registry、医療機関WEB掲示サポート、施設基準管理、証憑管理、医療情報システム安全管理MSOを通じて、医療機関が予防接種DXを安全かつ実務に落とし込める体制づくりを支援していきます。
予防接種の「紙」が消える日は、単に書類が減る日ではありません。医療機関、自治体、患者が、より安全に、より正確に、より少ない負担でつながる地域医療DXの始まりです。
予防接種DX・WEB掲示・証憑管理をまとめて支援します
予防接種DX、医療情報システム安全管理、施設基準、WEB掲示、証憑管理でお悩みの医療機関さまは、365メディカルへご相談ください。
無料で相談する引用・参照
- 厚生労働省「予防接種のデジタル化」
- 厚生労働省「予防接種のデジタル化(国民向け)」
- 厚生労働省「予防接種のデジタル化(自治体向け)」
- デジタル庁「自治体・医療機関等をつなぐ情報連携システム(Public Medical Hub)」
- 株式会社ミラボ「mila-e 予防接種」
- 株式会社ミラボ「東京都利島村で予防接種事務デジタル化対応 医療機関アプリ『mila-e 予防接種』提供開始」
用語集
- 予防接種DX:予防接種に関する通知、予診票、接種記録、請求、自治体連携などをデジタル化し、住民・医療機関・自治体の負担軽減と安全性向上を図る取り組みです。
- デジタル予診票:紙の予診票ではなく、スマートフォン等で事前入力できる予診票です。入力漏れや記載負担の軽減、医療機関での確認効率化が期待されます。
- PMH:Public Medical Hubの略。自治体、医療機関、薬局、国などをつなぎ、医療費助成、母子保健、予防接種、介護保険等の情報連携を進めるための仕組みです。
- マイナポータル:行政手続きや健康・医療情報等を確認できるオンラインサービスです。予防接種DXでは、予診票入力情報や接種記録の確認などに関わります。
- マイナ保険証:マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みです。医療機関では本人確認や資格確認、医療情報確認の入口になります。
- 接種間違い:対象年齢、接種間隔、ワクチン種類、接種回数などの確認不足により、本来とは異なる接種が行われることです。予防接種DXでは、接種記録確認等により防止が期待されます。
- 365Registry:365メディカルが提供を予定している、医療機関の施設基準、WEB掲示、証憑管理、更新管理を支援するサービスです。
免責事項
本記事は、公開情報をもとに365メディカルの見解として作成した一般的な情報提供記事です。予防接種DX、デジタル予診票、PMH、マイナポータル、マイナ保険証、医療情報システム安全管理、自治体連携、請求事務等への対応については、最新の厚生労働省、デジタル庁、自治体、関係団体、システム事業者等の公表資料、通知、仕様、契約内容を確認のうえ判断してください。本記事は、個別医療機関・自治体における法的適合性、システム適合性、運用適合性、算定・請求の可否を保証するものではありません。